美術史学会会員の皆様へ
2004・07・04 河野元昭
 この度はからずも美術史学会常任委員代表を務めさせていただくことになりました。これは常任委員による選挙の結果ではございますが、常任委員は全会員により厳正かつ公平に選出されているわけですから、代表も全会員からその任務を命じられたものであることは、改めていうまでもありません。いまや2300人以上の会員を擁する大きな学会の代表として、諸兄諸姉のご期待に添えるかどうか、若干不安がないわけではありませんが、精一杯力を傾ける所存です。何卒これまでの代表委員に対するのと同様、いやそれ以上に、温かいご支援と厳しいご批判を頂戴できれば大変うれしく存じます。
 これから東西両支部の常任委員会にてよく相談協議の上、今後の方針を順次決めていくことになりますが、私といたしましては、とくにつぎの三点に努力することをお約束したいと思います。
 第一に会員の皆様が学会にもっと参加しやすい環境を作ることです。学会に対する興味をもっと高めていただけるような環境を作ることと言い換えてもよいでしょう。毎年春に開かれる全国大会こそ、多くの会員が参加されますが、秋の支部大会、隔月の支部例会は若干さみしいことがあります。これらについては改善の余地が少なくないでしょう。もっとも最近では、時事的問題をテーマとしたシンポジウムには強い関心が向けられるようですので、これはぜひ継続的に行なっていきたいと思います。全国大会には多くの参加があるといいましたが、その際行われる総会は寥々たるものです。また常任委員選挙の投票率も、あまりに低いのではないでしょうか。学会誌『美術史』への参加、つまり投稿については、さまざまな制約があって急に拡大することはむずかしいかもしれませんが、いまのままでよろしいでしょうか。ご意見をうかがいたいと存じます。いずれにいたしましても、会員の皆様には積極的に参加されんことをお願いするとともに、少しでも参加しやすい環境に改善していきたいと思います。
 第二に会員の権利をさらに高めることです。第一が学会内部の問題だとすれば、これは外部に対する姿勢だともいえましょう。とくに現在、美術史を取り巻く状況はきわめて厳しい状況にあります。誰よりも皆様がひしひしと感じていられることでしょう。国立博物館や国立美術館は独立行政法人となりました。地方公共団体の美術館には民営化や休館を視野に入れた動きも明らかになりました。私立美術館にあってはすでに解散したものや、コレクションが散逸してしまったものもあります。そうでないまでも、予算の削減によって作品の新規購入はもとより、展覧会の開催や日常業務に支障をきたす場合もしばしばみられます。独立行政法人化については賛否両論があるとしても、これらに勤務する学芸員の博物館資料に関する専門的、技術的な調査研究を含む職務を行なう専門職としての地位が脅かされていることは、疑いないところです。また国立大学も独立大学法人となりました。ここで美術史の教育研究に従事し、あるいはこれを学ぶ若人の環境は、以前では考えられないような状況になっています。地方公共団体の大学や私立大学においても、似たような状況を示すところが少なくないのではないでしょうか。
 経済状況の変化とそれに伴う構造改革の必要性を考えれば、止むを得ないところがあったとしても、これらに関する美術史学会への諮問は何らありませんでした。これに対し常任委員会はシンポジウムを企画し、美術史学会名で関係諸機関に要望書を出してきました。われわれ美術史学会員の意見が完全に尊重されたとは決していえませんが、一定の役割は果たしたものと自負しています。さらなる改革が予想される現在、よりしっかりと発言していく必要があるように思います。またこれと関連して、学芸員が文部科学省科学研究費補助金の代表申請資格を得られるよう、専門委員会を設けて支援を続けてきましたが、これもかなりの成果を上げることができました。これらの外部に対する発言や働きかけを、これまでにも増して積極的に展開していこうと思います。
 なお日本学術会議連絡委員会のうち、芸術学研究、歴史学研究、東洋学研究の三連絡委員会には、美術史学会から委員を送り出しています。これらにおける美術史の地位を高めることも、外部との関係において緊急の課題であります。
 第三に美術史学会の運営をいかに進めていくべきか、改めて考えたいと思っています。15年ほどまえでしょうか、大きな改革が行われました。運営形態と常任委員の任務、『美術史』への投稿などがすべてはっきりと規定されて明確なものとなり、その結果大幅な会員数の増加をみることとなりました。この趨勢は現在も維持され、運営もきわめて順調に進んでおります。これもひとえに会員皆様のお陰と感謝に堪えないところです。しかしこのようなときだからこそ、これからの運営がこのままでよいかどうか、落ち着いて考えてみることも悪くないでしょう。とくに学会を思う心の結晶ともいうべき会費の納入率は、諸学会の中でも非常に高く、将来のために準備を始めた環境整備費も少しずつ豊かになっています。そこで今年度より、環境整備費委員会を新たに立ち上げることを決めていただいたわけです。この委員会には環境整備費の有効な使い方を含めて、もう少し広い視野から学会の将来を展望してもらい、すぐれた提言を行なってほしいと期待しています。しかし何よりも重要なことは、その過程で会員の皆様が積極的に意見を寄せられることはないでしょうか。それなくして、環境整備費委員会も何もあったものではありません。
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