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2023年度 代表委員挨拶
 2023年度に、あらためて美術史学会代表委員に選出されましたので、美術史学会の現状をご報告し、就任に当たってのご挨拶に代えさせていただきます。

 美術史学会は、美術史に関する研究活動の推進に努めることを目的として、1949年(昭和24年)6月に201名の会員をもって設立されました。現状は、2023年5月に九州大学で開催された第76回全国大会総会において報告された会員数で、2231名となっています。

 学会の運営は、東西二つの支部におかれた常任委員会(東支部常任委員会18名、西支部常任委員会12名)によって行われ、年一回の全国大会、東西それぞれ年5回の例会、および東西支部が担当する支部大会、またその年ごとの関連行事の共催・後援を行っております。故辻佐保子 お茶の水女子大学・名古屋大学名誉教授が美術史学会に対して行った遺贈金を基金化してできた、辻佐保子美術史学振興基金による外国人研究者の招聘も行われています。

 以上の活動および口頭発表の成果は、学会誌である『美術史』に掲載されます。『美術史』は、編集委員および外部査読者による厳正なる査読を経た投稿論文をもとに、年二回発行されます。さらに、その年ごとに『美術史』に掲載された論文の中から、論文賞委員によって毎年最も優れた論文として選ばれた1-3編ほどの論文が、美術史論文賞として表彰されます。

 現在、過去に論文賞を受賞した論文20編を、英文美術史刊行委員会によってArt History in Japanとして、東京大学出版会から世界に向けて英語で出版する計画が進行中です。これは、日本の美術史研究の優れた成果を、世界に向けて発信することを目的としたものです。個々の研究者の努力だけでなく、学会には世界へ向けて日本の文化や研究の現状を伝える努力を積極的に行う責務があると判断したことから、この計画が始まりました。質の高いものにするために時間をかけて継続してきたこの計画は、本年度中についに完成する予定です。この間に努力を重ねられた委員各位には篤く御礼を申し上げます。

 さらに外部関連の委員として、美学会を始めとして芸術に関わる諸学会との共同事業を担当する藝術学関連学会連合の委員、および国際美術史学会(CIHA)との協働を担当する国際美術史学会関連の委員、さらに東洋学・アジア研究連絡協議会を担当する委員がおります。

 以上のように、研究発表及び出版の機会を提供すること、各大学・研究所および各美術館・博物館との協力を進めること、関連学会との連携を行うこと、国際化の推進に努めることなど、すべての企画・行事は、初めに述べた美術史研究活動の推進という美術史学会の目的に適うものです。

 科学研究費に関しては、会員の皆様のご貢献により、これまで科研費の応募件数および採択数を増やす努力がなされてきました。その結果、現状の科研費の「系・分野・分科・細目表」では、分科「芸術学」の中で細目「美術史」が単独で維持されるに至っています。今後も、この枠組みの中で一層の努力が必要であると考えております。

 次に、現在、学会が抱える幾つかの問題や懸案事項についても触れておきます。学会員の数が頭打ちであり、わずかながらも減少に転じてきていること、また学会費の納入率が下がっていること、学会常任委員選出のための選挙への投票率が低すぎることなどの問題がまず上げられます。さらには、年一度の全国大会を引き受ける大学を確保すること、それらの全国大会主催校の負担、本部事務局・東西事務局の日常業務負担の軽減も大きな問題です。学会事務局の運営事務量の軽減のためには、事務および連絡のIT化も一つの解決策であると考え、紙媒体から電子メールを用いた通知に移行しました。これらの諸問題を解決するためには、常任委員各位ならびに会員お一人お一人のご理解、ご協力がぜひとも必要です。

 加えて、2020年度以降は、新型コロナウィルス感染症の拡大という未曾有の事態に見舞われ、学会活動も大きな打撃を受けました。対面型の企画は軒並み中止や延期に追い込まれ、研究発表という学会活動の根幹に関わる部分も影響を蒙りました。この状況に対して、学会としても衆知を集め、難局を乗り越えるべく努力を重ねました。オンラインによる常任委員会や総会を実施し、例会等の研究発表の場も同様な形で確保しました。2022年度、感染症はようやく終息に向かいつつあり、学会活動は、支部大会・美術館博物館シンポジウムなどが、オンラインと対面を組み合わせたハイフレックス方式を導入しておこなわれました。そして、2023年5月には、当番校の九州大学のご努力によって、初めてハイフレックス方式での全国大会開催を実現させました。新しいかたちでの全国大会を成功させた九州大学のみなさまには、この場をお借りしてあらためて御礼を申し上げます。

 困難な時代であるからこそ、美術を生み出してきた人間の精神には学ぶものが多くあるのではないかと考えます。美術の歴史を辿り、現代において求められる、その意義を社会に伝えていくことが、美術という学問に携わる者の使命であると思います。

 美術史学会は、美術史研究活動を適切に進めていくための環境整備にこれからも努めて参ります。よりよい学会が実現するよう、微力ながら力を尽くして参る所存です。学会員の皆様のご支援、ご協力を、心よりお願い申し上げる次第です。

2023年9月
長岡龍作       
美術史学会代表委員

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